南雲 優 さん

Yu Nagumo/32歳

千葉県出身。関東のデザイン学校を卒業後、東京で主にスマートフォン用ゲームデザイナーとして活躍し南魚沼市へIターン。2019年、株式会社アラフェルム(南魚沼鈴木農場が法人化し設立された会社)に入社。広報やデザインを担当し、鈴木農場ブランドを確立するため多岐に渡り業務に邁進している。

「鈴木農場」のブランドを確立したいと、「和からしマスタード」を始めとしたオリジナル商品のデザイン等幅広く携わっている南雲さんに、ブランド化に対する想いについてお話を伺った。

関わる人すべての幸せを目指して

野菜を育てるだけではない 様々な事業へ挑戦

鈴木農場は野菜農家であるが、農業を主軸に南魚沼産のからし菜を使った「和からしマスタード」、自家栽培の鷹の爪で作った「ノウカラー油」や魚沼野菜神楽南蛮入りの「南蛮じぉっから」等の調味料を始め、地元の素材を使用したクラフトコーラ「ノウカコーラ」など鈴木農場オリジナル商品の加工、販売を行っている。
 2022年には、南魚沼の山々を見渡せる展望の良い立地に農業複合施設として「鈴木農場」をオープンした。店舗の扉を開けると笑顔で迎えてくれた広報の南雲優さん。建物内を見渡すと3つのエリアに分かれており、飲食可能なカフェエリアの他、商品の販売エリア、そしてひときわ明るい水耕栽培エリアにはレタスやバジルが育っている。
 南雲さんが農業複合施設鈴木農場について教えてくれた。
 「水耕栽培エリアは農業と福祉の連携=農福連携の就労支援施設、『※就労継続支援B型施設』SUZUKI Nojyo Villageとして運営しています。障がいをもった方が農業を通じて、自信や生きがいを持って社会に参画する機会をつくり、農業を学ぶことで将来的には農家での就職まで斡旋し、就労者が自立できることを目的としています。」
 南魚沼は全国有数の豪雪地帯であり、天候に左右される外の作業については冬場の就労場所が限られてしまうため、SUZUKI Nojyo Villageでは屋内に水耕栽培を設けることで天候に左右されず通年で働ける環境を整えた。
 「私たちは高齢化が進む農業分野において新たな担い手の確保として、障がいのある方の雇用の場を確保し農業の楽しさを通じて就労支援をしていきたいと考えています。現在は20代~60代の方まで7名の方が働いています。障がいを持つ方にとって南魚沼市で就労先の選択肢がまだ少ない現状ですが、鈴木農場では天候に左右されない水耕栽培の他、外での苗の植え付け、収穫作業や販売等、就労者の皆さんが飽きずに楽しんで働けるよう仕組みを作っています。昼食は自分たちで育てた野菜も食べられるので、働くだけでなく食べる楽しさも味わえる就労施設となっています。」
 南魚沼では珍しい農福連携の施設ということでまだ認知度が低く、このような就労支援があることを多くの人に知ってもらいたいと南雲さん。取材当日も青空の下、畑で生き生きと作業する就労者の姿が印象的であった。
 続けて「水耕栽培に加えて私たちの商品を直接お客様に体感していただけるカフェエリアと商品の販売エリアを併設し、南魚沼を体感できる収穫体験等アクティビティも可能な農業複合施設として運営しています。」と語る。

カフェエリアでは鈴木農場産の野菜がメニュー内で使用されており、ハンバーガーやホットドックなど、鈴木農場の主力商品である「和からしマスタード」に相性の良い食事も提供されている。地元の「クロモジ」と呼ばれる香りが特徴的な素材を始めとしたスパイス等を使った自家製クラフトコーラ等の飲み物も味わうこともできる。
 店舗内ではマスタードサーバーから量り売りを行う生マスタード販売を始め、事前予約をすればマスタード作りの体験もでき、食事だけでなく様々な形で鈴木農場の魅力を体感できる仕組みだ。
 「鈴木農場のメーカーとしての信用度を高めたいという想いから始まり、お客様が体感できる場としてこのようなエリアを設けました。私たちの商品や取り組みで多くの方に鈴木農場というブランドを知ってもらい、小さな農家でもちゃんと取り組めばブランド化ができ、お客様へ良い商品が提供できることを伝えたいです。」と南雲さんは語る。

農家がブランド化を目指す理由

なぜ鈴木農場はブランド化を目指すのか、南雲さんに伺った。
 「南魚沼と言えば『米』のイメージですが、鈴木農場はアスパラやカリフラワーを始め、小玉スイカや野沢菜などを生産している野菜農家です。小規模の農家は苦労も多く、ちょっとしたことで廃業に追い込まれてしまうこともあります。現在の社長就任後、生鮮野菜を生産するだけでなく鈴木農場をブランド化し、価値を上げたいという理由から加工品の製造を始めました。良い商品を作り価値を上げ、お客様に満足していただければ利益も生まれ、関わる全ての人が幸せになれると考えています。」
 南雲さんは東京でデザイナー学校を卒業後、スマートフォン向けのゲーム等のデザイナーとして活躍し、生活環境が変わるタイミングで南魚沼に縁がありIターン。最初の数年は地元の酒造会社に勤めていたが、地元の猟友会の中で鈴木農場社長と出会い現在のキャリアが始まった。
 「当時鈴木農場がマスタードを始めたばかりの時期で商品デザインの相談から始まったことがきっかけです。元デザイナーである私が受託してしばらくは作成していましたが、更に会社を大きくしたいという話の流れで社長より誘いがあり入社することになりました。私たちの商品はおいしいということは当たり前で、加えて見た目の良さやカッコよさで手に取ってもらえる機会を増やし、商品の開発ストーリーで納得して頂けるよう製品開発を心がけています。」

鈴木農場

アスパラやスイカを始めとした農作物の生産の他、自家栽培で育てたからし菜の種から作る「和からしマスタード」など、加工品の製造・販売を行う。2022年には農業複合施設をオープンし、カフェ営業のスペースは貸し切りパーティーも対応可能。その他マスタード作り体験や野菜の収穫体験(要予約)、クロスバイク等様々なアクティビティを体験することができる。また、就労継続支援B型施設を併設し農福連携施設としても役割を担っている。

※就労継続支援B型…障がいや年齢、体力などの理由で雇用契約を結んで働くことが困難な人が、就労の機会を得たり、就労に必要な知識や能力の向上のために就労訓練を受けたりすることが可能な障がい福祉サービスの一つ。

●〒949-6682南魚沼市大月1200
●TEL/025-788-0908
●営業時間/10:00~17:00
●定休日/火曜
●HP/https://www.minamiuonuma-suzukinojyo.com
●Instagram/https://www.instagram.com/suzukinojyo.yu/

南魚沼生まれのマスタード

鈴木農場の主力商品である、和からしマスタードは現在3種類を展開。そのうちの一つ「SMOKE和からしマスタード」が新潟ガストロノミーアワードで特産品部門を受賞した。和からしマスタードは自家栽培した南魚沼産からし菜から製造されている国産のマスタードである。日本で流通している一般的なマスタードは海外産が多く原料から国内で製造しているマスタードは全国的に見てもほとんどないと南雲さん。
 「知人の『辛いマスタードが食べたい』という一言からマスタード作りが始まりました。農家である強みを活かし、自分たちでマスタードの原料となるからし菜を南魚沼で栽培し、辛さの中にも旨みと爽やかさを感じる商品を作ることができました。実は南魚沼周辺のエリアではわさびの代わりにからしを食べる習慣があったそうで、現在もお蕎麦の薬味としてからしを添えて提供しているお店もあります。この地域とつながりが深いからし菜を使って挑戦を始めました。一般的なマスタードに広く使われている種子は辛さが控えめの黄色のイエローシードですが「和からしマスタード」は種子が茶色でより辛みを感じるブラウンシードを栽培し使用しています。種子が小さめなので6段階もの工程を経て丁寧に選別を行っていてかなりの手間暇がかかりますが、爽やかな辛みを楽しめる商品に出来上がっています。」
 受賞した「SMOKE和からしマスタード」は燻製が香るマスタード。南魚沼で織物業が盛んに行われていた時代に原料となる蚕が好む桑の木を植えており、現在使われなくなった桑の木を燻材に使用することで地域資源の有効利用にも一役買っている。
 原料のからし菜は9月に種をまき、葉が出てきた頃に雪が降り始める。そのまま冬を超え翌年の6月に収穫を行うそうだ。通常はからし菜のえぐみが出てしまうそうだが、鈴木農場のからし菜はこのえぐみが少ないようだ。
 「県外の農家の方に問い合わせをいただいて初めてからし菜にえぐみがあることを知ったんです。科学的な根拠はわかりませんが、一度雪に覆われることで野菜の糖度が上がるように私たちのからし菜もえぐみが少ないものに育っているのかもしれません。」と和からしマスタードの特徴も教えてくれた。
 小粒ながらもマスタードシードの一粒一粒の食感を楽しめ、ピリッとした辛さが料理全体の味を引き締める。定番のソーセージからドレッシングやカルパッチョ、お寿司やポテトサラダにも相性が良いのでぜひ試していただきたいと南雲さんは語る。

ブランド化へ向けて更に発展したい

これからの鈴木農場の展望について伺った。
 「農家である私たちらしい商品やサービスを提供し、苦労して作り上げたものでお客様が喜んで頂けることにとてもやりがいを感じています。鈴木農場を発展させ、私たちの商品をさらに広めたいと思っています。加工品では多くのお客様に満足していただき、就労支援では野菜を育てる楽しさを就労者の方に知っていただく。地域へ貢献ができればと思います。現在はマスタードが主軸ですが、他の商品の開発や農業以外でも展開したいと考えています。社長からは『せっかくやるなら楽しくやろう。』と言われるのですが、本当に楽しく仕事をさせていただいてます。もちろん責任も伴いますが、失敗を恐れず様々なことに挑戦していきたいと思っています。」
 商品開発も留まることがないようで、取材当日も新作の商品を紹介していただいた。また、近隣の農家や販売者と協力してイベント開催も積極的に行い、様々な形でブランド認知に向けて取り組んでいる。鈴木農場のブランド化へ向けた様々な取り組みは着実に実を結び始めている。

鈴木農場の「チーズミートドッグプレート」

この日のランチは秋からの新作メニュー、「チーズミートドッグプレート」。併設された水耕栽培施設で育ったレタスを添え、ドレッシングは鈴木農場商品「和からしマスタード」入り。「チーズはかけ放題で、お客様がストップというまで目の前で提供します。チーズ好きな方はたっぷり楽しんでほしいです。すべてのカフェメニューのサイドには和からしマスタード各種をお付けするので、食事と一緒にお好みで試していただきたいですね。」