髙野 大道 さん(左)

Hiromichi Takano / 31歳

南魚沼出身。リモートワークができる会社に転職し、令和3年7月に南魚沼へUターン。リモートワークで仕事をする傍ら、家業のロッジを運営している。

髙野 愛理 さん(右)

Airi Takano / 31歳

福岡県出身。大道さんと結婚後、令和3年7月に南魚沼へIターン。現在は、東京都に本社を置くIT企業に在籍し、リモートワークを実践。子育てにも奮闘している。

新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートワークという働き方が一般化した。石打丸山スキー場内のロッジ、石打スキーセンターで暮らす髙野大道さん、愛理さんは夫妻ともにリモートワーカーだ。今回はお二人に南魚沼でリモートワークをする魅力、今後の可能性について伺った。

起業・ビジネスを身近に感じる

先代が築いた基盤に先進技術を掛け合わせて

令和3年7月に東京都から南魚沼に移住した髙野さん夫妻は、それぞれが本社を東京都に置くIT企業に在籍し、夫妻揃ってリモートワークを実践している。また、本業の傍ら大道さんの実家である石打丸山スキー場内のロッジ、石打スキーセンターの手伝い、2歳の娘さんの子育てと多忙ながら充実した毎日を送っている。
南魚沼は50年以上の歴史を持つスキー場を有し、スキー産業が盛んな地域だ。スキー産業を支えているのはホテルや民宿をはじめとした宿泊業で、滞在者の疲れを癒す場であり、滞在者と地元民との交流の場となっている。
福岡県出身でスキー場のないところで生まれ育った愛理さんにとって、この「民宿」というシステムがとても新鮮に感じられた。
「家にお客さんがいる中で生活するという感覚はとても不思議でした。民宿を営む家の子どもにとってはそれが日常であり、自分の家とビジネスが一緒になっていることが当たり前という感覚に驚きました。自分で事業をするという感覚が子供のころから身近にある環境はここならではだと思います。」と愛理さんは語る。
現在、市内では160軒程の民宿が営業しているが、後継者不足といった問題を抱えるところも少なくない。これは民宿に限らず自営業であればついてくる悩みであるが、高齢化や人口減少が進む地方ではより深刻な問題となっている。
愛理さんは、南魚沼で生活する中で、せっかく先代が築いてきた基盤があるのだから宿泊業にかけ合わせられる新しい取り組みがないかと考えている。 現在、愛理さんが勤務する(株)FiNANCiE(フィナンシェ)ではWEB3という次世代の分散型インターネットの仕組みを利用し、関係人口創出や事業継承問題といった地域の課題解決を応援する新しいコミュニティツールを提供している。
「今は企画営業として、トークン(NFTやFT)という仮想通貨を通じたクラウドファンディングを使って、地域や企業等が抱える課題解決を目指しています。」と愛理さん。
自らの仕事で得た知識、経験を南魚沼が抱える課題解決に役立ててくれることだろう。

石打スキーセンター

石打丸山スキー場の中腹にある、宿泊施設、ロッジ、レストランを兼ね備えた施設。冬季にはウィンタースポーツを楽しむ人が集う。

●〒949-6372 南魚沼市石打2321
●TEL/025-783-3131
●HP/https://ishiuchi-ski.jp

リモートワーク=人生の選択肢を増やす手法

夫妻が東京都でオフィスワークをしていたころ、新型コロナウィルスが流行。子どもを授かったばかりの愛理さんを気遣い、当時勤務していた会社が令和2年3月からリモートワークに切り替わった。
「これまではフルリモートというと、エンジニアやデザイナーなどの技術職や、フリーランスとして独立しないとなかなか手に入れられない働き方でしたが、企業に属しながらこういう働き方ができるんだといち早く気づかせてもらいました。今の会社も出産・育児に理解があるので、とても助かります。」と愛理さん。
週末はロッジの手伝いをしているため、週末副業といった形態をとっている。お客様と直接ふれあって「サービスが良かった」とお褒めの言葉を頂いたときに、オンラインでの仕事とは違ったやりがいを得られるそうだ。
子育て世代の2人は、子どものスケジュールにあわせた生活リズムを送っている。愛理さんは子どもを保育園へ送り出した後、自宅で仕事を開始し、お迎えの時間に合わせて切り上げられるようにスケジュールを組んでいる。大道さんは、子どもを抱え、スノーボードでゲレンデを下り保育園へ送り出した後、自宅に戻り9時頃から仕事を始める。フレックスタイムの中で適宜休憩しながら、夜にロッジを手伝い、20~21時まで働く。
大道さんもコロナ禍の中で、子育てをするにあたり都会に住む意味を感じなくなり、どこでも働けるリモートワークに魅力を感じはじめた。リモートワークができて、昔から興味のあった地方創生に携われる会社をメインに転職活動を始めた。そしてUターンと同時にWAmazing株式会社に就職し、現在は観光系の地域創生・外国人観光客誘致の仕事をしている。
「東京で出社していたときは、朝早く家を出て夜遅くに帰宅していました。今の会社に転職してからは、子どもと遊べる時間もとれるし、妻が夜に仕事があるときには自分が子どもを見ることもあります。夫婦共にリモートワークだからこそ、時間に融通が利きやすいです。」と教えてくれた。
また、日々子育てに奮闘する愛理さんにとっては、通勤に時間を割くことがなく、自分の時間が増えることはありがたいという。リモートワークを取り入れている会社の多くはフレックス制度を導入しており、自分のライフスタイルに合った勤務がしやすいため、子育て世代や副業をしたい人には適した働き方なのかもしれない。

本業以外にも様々なことにチャレンジできる

コロナ禍を経て、リモートワークが普及するなかで「固定の場所で仕事をしなくてもいい」という意識が労働者の中に定着しつつある。自分の時間を持てるようになったことでさらなるキャリアアップや自己実現の場としての副業や兼業といった考え方が生まれている。こうした副業や兼業を希望する労働者が適切な職業選択を通じ、適切なキャリア形成を図れるよう、国がガイドラインを示したということもあり、副業や兼業に理解を示す企業も増えている。
大道さんもWAmazing株式会社に所属しリモートワークや出張等の仕事をこなす傍ら、民宿営業を行っている。 「本業以外にもいろんなことにチャレンジできるし、住む場所も選べます。人生の選択肢を増やす最高の生活です。」と大道さんは教えてくれた。
アフターコロナやウィズコロナの社会においても、職業の選択肢としてリモートワークは残り続けるだろう。そうしたときに、南魚沼市でリモートワークをする人にはどんな人が向いているだろうか。
「スキーヤー、スノーボーダー、農業での起業を視野に入れている人、都会の喧騒から離れて田舎を味わいたい人、東京の水準の給与をもらいながら資金を貯めて起業やアーリーリタイアをしたい人など、そんな人にはもってこいの場所だと思います。案外、農業や飲食以外でもいろんなことにチャレンジできる環境ですよ。」とご夫妻は語る。
ご夫妻が語るように南魚沼ではリモートワーク施設の整備を進め、リモートワークに取り組める環境を新たに構築しているほか、創業支援セミナー、創業支援補助金、南魚沼市チャレンジ支援補助金などを実施し、新しいチャレンジをしようと思っている人を応援している。南魚沼では新たなチャレンジをする人を応援する土壌が整いつつある。

自然あふれる中での子育て

南魚沼の生活環境はIターン者である愛理さんにとってどのようなものなのかを聞いてみた。
「やはり都会と比べるとお店や病院 が少ないという不便さはあります。私は雪がない地域から雪国に来たので、Iターン当初は不安しかなかったです。車がないと生活には不便ですし、特に雪道の運転は慣れるまで怖かったですね。ただその反面、仕事で自宅のロッジからリモートで打ち合わせをすると『どこにいるの?』と相手方に面白がってもらえるので営業職的には良かったです。」と笑って話してくれた。
休みの日は、子どもと自然の中で遊んだり、事業づくりに勤しんだりする。年に一度のフジロックフェスティバルは家族で楽しみにしている一大イベントだ。南魚沼は、食や自然においても他県に引け劣らない魅力がたくさんあり、自然豊かな環境で子育てしたい人にはよい環境だろう。
愛理さんは自身のリモートワークの経験等をSNSで発信し、今の働き方やIターンの経験をもっと多くの人に波及させたいと考えている。2人のように必ずしも会社があるところに住まなくてもいい働き方であれば、子育ての時間や自分の時間に重きを置いた生活を送れるようになるだろう。
愛理さんはIターンしたことで民宿というこれまで自身の中にはなかった感覚に出会い、自営業や事業継承という視点を持つきっかけとなった。住む場所が自由ということはそういった新しい視点を得るチャンスにもなりうるという見方もできるのではないだろうか。

食堂で提供しているメニューを家族で

「普段、石打スキーセンターの食堂で提供しているメニューの中から好きなものを選んで食べています。」この日のランチは、大道さんはカレーラーメン、愛理さんは麻婆麺、それと自家製コシヒカリを使用したひじきいなり。主に大道さんが作るという。「毎日違うものを食べることができるのでランチの時間が楽しみですね!」