内山 治彦 さん

Haruhiko Uchiyama / 54歳

株式会社内山肉店 代表取締役

南魚沼市出身。県外大学を卒業後、オーストラリアで肉用牛の飼育・販売を学ぶ。その後、家業である(株)内山肉店を継ぐ。南魚沼の風土や気候を活かした食用肉の加工・販売に力を入れ、南魚沼ならではのブランドを確立している。

南魚沼で雪室を利用した熟成肉の製造、販売に取り組む(株)内山肉店。今回は代表取締役 内山治彦さんに南魚沼ならではの商品づくりについて伺った。

「南魚沼」でしか、つくれないものを

この土地ならではの付加価値を追求

丹精込めて作ったものを知ってもらい、いかに高く評価してもらうかは、生産者にとって悩ましい問題であり、大きなテーマでもあるだろう。
(株)内山肉店の内山治彦さんは、雪国南魚沼の風土を活かした高付加価値商品の製造・販売に挑戦している。現在の主力商品は雪室で熟成させた「雪温(せつおん)貯蔵にいがた和牛」と「魚沼そだち雪ひかりポーク」、それらを材料に製造したソーセージやハンバーグなどの加工品だ。
雪室とは、冬に降り積もった雪を専用の倉庫に貯め、冷熱源として利用する自然の冷蔵庫のことをいう。一般的な冷蔵庫とは違い、常に一定の温度と湿度が保たれているため、食品の熟成を促進する効果がある。「雪国南魚沼でしかできない雪の力を最大限に活用した商品づくりにこだわっています。常にアンテナを張り、研究を重ねています。」と内山さんは語る。
内山肉店の創業者は内山さんの父親だった。内山さんは幼いころから父親が飼育する30頭の牛の飼育、食肉販売の手伝いをしていた。「自分は3人兄弟の次男でしたが、父親の手伝いをするのは自分だけでした。だから自然と継ぐなら自分だなと。家業を継ぐなら海外の様子を見てこなければならないと思い、1992年からオーストラリアへ渡りました。」
当時は輸入牛が主流になり始めたころだった。オーストラリアではブラックアンガスという品種の牛の飼育から日本向けの輸出まで手掛けた。関西向けに枝肉を販売し事業展開もうまくいっていた2001年、狂牛病が広まった。日本で牛肉が売れなくなり事業が立ち行かなくなったため、日本に戻らざるを得なかった。
「オーストラリアでの仕事は順調だったので、狂牛病がなければ今もオーストラリアにいたかもしれませんね。」と内山さん。
その後、帰国後間もない2003年に新潟県内産和牛の地域名柄を統一したブランド「にいがた和牛」が誕生する。新潟県は全国的に豚肉の消費量が多く、牛肉の消費量が少ない県だ。牛肉のブランドを上げるためにも、「にいがた和牛」の飼育に挑戦することに決めた。
飼育を開始当初、ホテルへ営業に出かけても、「そんなに高い肉は扱えない」と断られたという。しかし徐々に美味しさが広まっていき「にいがた和牛」の取り扱い店舗が増えていった。
需要が高まると供給側は値段を下げようと価格競争が起こる。「同じ品質のものを作っても生き残れないと実感しました。この土地ならではの、付加価値がつけられることをやらなくては、消費者に選んでもらえない。ちょうどその頃、(株)八海醸造が雪室を作るという話を聞きました。ダメもとで社長に熟成肉を作りたいですと相談しに行ったら、雪室内に熟成庫を作っていただけることになりました。」

「雪」という宝物

そこから、食肉販売をする傍ら、熟成肉の研究が始まった。どのくらいの期間熟成させればいいのか、どういった環境に置けばいいのか、4~5年かけて研究した。
2021年には魚沼の里内に雪室設備と加工場、レストランを併設した「YUKIMURO WAGYU UCHIYAMA」をオープンし、現在はそこで熟成肉の製造を行っている。
「熟成肉には、優良菌を付着させています。雪室に貯めた雪の水分のおかげで湿度もあり乾燥しないため、真空パックせずに裸のまま熟成させていています。優良菌は活発に働く温度が決まっており、湿度も熟成に関係してくるので、管理が繊細です。ただ、この熟成方法はこの地の風土を最大限生かしたものであり、この地でしかできないことだと思っているので、自然や雪に感謝しながら妥協なく取り組んでいます。」と内山さんは語る。こういった様々な工程を経て南魚沼ならではの熟成肉は完成する。
内山さんの雪を使うというこだわりは肉の熟成以外にもあらゆる面に表れている。
ベーコンや生ハムなどの加工品は塩漬けにしている間も雪室に入れており、また生ハムを塩抜きする工程では「雷電様の水」を使用している。「雷電様の水」とは、越後山脈に連なる桂山の裾野から湧き出す湧き水のこと。降り積もった雪が長い年月をかけ染み渡り、岩肌から湧き出す清らかな水は、集落の飲料水や水道水源、また清酒の源水としても利用されている。
雪へのこだわりはこれだけではない。「YUKIMURO WAGYU UCHIYAMA」に併設されたレストランでは雪温貯蔵和牛やソーセージなどの加工品が実際に味わえるほか、雪下や雪室で貯蔵したジャガイモや人参、大根なども提供している。
雪下や雪室で貯蔵した根菜類は、甘みがぐっと増し滋味深い味わいになる。もちろん、豊かな雪解け水で育てられた南魚沼産コシヒカリも堪能できる。

ブランド化は一朝一夕では成り立たない

「雪があるからこそ、南魚沼だからこそできる商品づくりにとてもこだわりがあり、追求しています。ただ、こだわりを持って作ったものはそれなりに値段が高くなってしまいます。どうしてそんなに高いのか?をきちんと説明でき納得できるストーリー性があることが大切だと思っています。価値がある物を作り、きちんと評価してもらうことがブランド化につながります。雪という宝物で作り上げた付加価値のある商品を、安売りは絶対しないということに気を付けています。」と内山さん。
「雪温貯蔵にいがた和牛」と「魚沼そだち 雪ひかりポーク」は商標登録し、ブランド化を目指している。さらに近年はドイツ食肉連盟主催「IFFA日本食肉加工コンテスト」に精力的に出品している。
IFFAとは3年に1度ドイツで開かれる国際食肉加工の見本市で、コンテストは見本市内のイベントとして行われている。ドイツの食肉マイスター8人が香りや味、食感、見た目など細やかな項目を減点方式で採点し、金賞は満点の商品に贈られる。2022年は13品目出品し、うち11品目が金賞を受賞した。(2品目は惜しくも銀賞)こうしたコンテストに出品し、ブランド価値向上に取り組んでいる。
「ブランド力をあげ、高くても高品質なものを求めていただける層にアピールしていけるように、日々取り組んでいます。」
ブランド化は一朝一夕では成り立たず、こうした地道な取り組みが認識されていくことで、実を結ぶものなのだろう。

内山肉店

美佐島に精肉店を構え、にいがた和牛(新潟県の最高級のブランド和牛)・新潟県産銘柄豚・にいがた地鶏などの生肉を販売。令和3年7月には精肉・加工品の販売とレストラン併設した施設「YUKIMURO WAGYU UCHIYAMA」をオープン。

●〒949-7112新潟県南魚沼市長森233-1
●TEL/025-788-0429
●営業時間:ショップ/10:00~17:00 レストラン/11:00~15:00
●HP/http://uchiyama-meat.com/

大切なのは挑戦すること

事業を行う上での心構えを内山さんに聞いてみた。
「大事なことは挑戦するということですね。最初は生肉の販売がメインでしたが、生肉を販売用に切り出すと端肉(フードロス)が出てしますので、それを何かに加工できないかと思い立ち、ハンバーグを作ることにしました。ハンバーグの加工方法はかなり研究し、全国のいろいろな地域に勉強しに行きました。すると次第に話題となり、有名ホテルでも扱ってもらえるようになりました。このことが一つの成功体験でしたね。また、雪国ならではの高付加価値商品の開発のために雪国でしかできないことを探し回り、熟成肉にたどり着きました。私も試行錯誤を繰り返しながら事業を展開してきましたが、その経験から何事も初めからダメと決めつけずに『ダメで元々、何でも挑戦すること』が事業を行う上では最も大切だと思います。」と内山さんは語る。
日々、多方面にアンテナを張り、どうしたらよいか学び、情報をインプットし、自分がやりたいことを自分が住む地域でもできるようにアウトプットする。そういった学び続ける姿勢をもつ内山さんだからこそ、熟成肉の製造、それに付随する加工品の販売を実現できたのだろう。

また最近、内山さんは市内の生産者のブランド化や商品開発に対する意識の変化を感じているという。
「近頃、雪室野菜や天恵菇(てんけいこ)が東京都内などで評価され始め、お米以外の農産物も頑張ればもっとお米並みに価値を上げることができるんじゃないかと、生産者の意識が変わってきていると思います。実際に新商品を開発して、食のコンテストに挑戦している事業者もいます。これから更に南魚沼の食が盛り上がっていくと思いますよ。」と内山さん。
「あわせて、南魚沼の人たちはいかに食に恵まれているか、その素晴らしさを知らない人が多いような気がします。私自身、全国のいろんな方とお付き合いする中で『南魚沼って美味しいものがたくさんあるよね』と言われ、改めて気が付かされました。」と語る。
市内にはお米のほか、スイカ、お酒、きのこ等々、素晴らしい要素がたくさんある。加えてお酒を筆頭に味噌や漬物などの発酵文化が残り、昔ながらの保存術が今も息づいている。
温泉を利用したマンゴー栽培やすっぽん養殖など、「雪国」という環境に囚われずに挑戦している事例も多く見受けられる。南魚沼の風土、環境が育んだ豊かな食と生産者たちの熱い想いが「南魚沼ブランド」を益々盛り上げていくことだろう。

レストランで提供しているグリルプレート。

「お弁当は持ってきていないので、外に食べに行くことが多いです。ここではドイツのコンテストで金賞を受賞したソーセージなども味わえます。雪室野菜はクセがなくとても食べやすいです。あと、窓から見える景色を計算しつつレストランを設計しているので、ぜひ景色も一緒に味わってほしいですね。」