山本 正和 さん

Masakazu Yamamoto / 44歳

株式会社 竹治郎 代表取締役社長

南魚沼市出身。市内高校卒業後、建設業に従事。現在は(株)竹治郎を営む。南魚沼の風土を活かした稲藁の栽培、〆縄商品の開発・販売を行っている。

日本のお正月には欠かせない〆縄。国産〆縄ではシェアNo.1を誇る会社が南魚沼市大月にある。(株)竹治郎だ。今回は(株)竹治郎の山本正和さんに南魚沼の風土を活かした〆縄作りについて伺った。

南魚沼から生まれたシェアNo.1

南魚沼の豊かな自然がデザインの源

JR六日町駅から車で10分。田園風景が広がる南魚沼市大月に(株)竹治郎はある。日本のお正月には欠かせない〆縄を製造する会社で国産〆縄ではシェアNo.1を誇っている。
現社長である山本正和さんは市内の高校を卒業後、現会長である父から会社を受け継いだ。近年、南魚沼では事業の後継者が見つからず、廃業を余儀なくされるというケースをよく耳にするが、(株)竹治郎はこの問題とは無縁だったようだ。
国産〆縄シェアNo.1を誇る商品デザインには南魚沼の自然豊かな風土が大きく影響している。
「毎日1時間程度、趣味でランニングをしています。商品のデザインや色彩は、ランニング中に眺める景観の中から着想を得ることが多いです。同じコースを走っていても、春には緑色の田んぼが秋になり稲が穂をつけ黄金色に変化していくように、季節によって景観が全く異なります。このような景色の変化が新しいアイディアを生むヒントになります。」と山本さんは語る。
南魚沼の自然豊かな景観は首都圏では味わえない、贅沢な癒しの時間と新しい商品のアイディアをもたらしているようだ。

東京ドーム約3.5個分の面積で国産藁を栽培

〆縄の多くは食用米として収穫された後の稲藁を使って作ることが多いという。しかし(株)竹治郎では食用米ではなく穂を付ける前に刈り取る〆縄に使用するためだけの稲藁を東京ドーム約3.5個分(13884㎡)という広大な面積の田んぼで栽培している。
南魚沼といえば言わずと知れたブランド米南魚沼産コシヒカリをイメージするが、コシヒカリでは原料となる稲藁の背丈が足りず、〆縄には適さない。そのため(株)竹治郎では伊勢錦、赤福といった品種の稲を〆縄用の稲藁として栽培している。
「〆縄用に栽培する稲藁は青々とした藁の色を維持するために肥料を撒く回数が多い上、病気にもなりやすく大変デリケートです。毎日田んぼに足を運んで日々生育状態が変化していく中、最高の藁ができるように管理しています。食用米より〆縄用の稲の栽培の方が簡単だと思われがちですが、むしろ食用米以上に気を遣います。」と山本さんは語る。

稲が青いうちに刈り取る『青刈り』

稲藁を収穫するにあたり最も重要なのが刈り取るタイミングだ。まだ稲が青いうちに刈り取るという。
「一般的に食用米は毎年、9月~10月にかけて稲刈りをしますが、〆縄用の稲は、7月下旬から8月末に刈り取ります。1年で最も暑い時期に稲を刈らなければならないので、サウナの中で作業をしているようでとてもつらいですが、この時期に刈った稲は短時間で乾燥させることで、色が褪せにくく、芳醇な香りが詰まった藁となります。」
山本さん曰く、同じ稲藁の栽培であっても、南魚沼で栽培した稲藁はこの風土ならではの色と香りと長さになるという。南魚沼の自然環境を熟知し、知識に裏付けされたこだわりがあるからこそできる栽培方法だ。
こうして栽培された稲藁を使って職人が心を込めて一本一本手作業で〆縄を作る。そして色とりどりの〆縄商品として出荷されていく。
「〆縄はその年の五穀豊穣と無病息災を願い飾るものです。当社の商品を飾っていただく皆様の願いが叶うよう、感謝の気持ちを込めて作っています。」と山本さん。南魚沼だからこそ作れる〆縄はこのような多くのこだわりを経てお正月を待つ人々のもとに届くのである。

歳神様は藁に宿る

〆縄は門松とともにお正月になると各家庭に飾る縁起物だが、意外なことに海外製のものも多い。国産〆縄ではシェアNo.1を誇る(株)竹治郎だが、日本国内で消費される〆縄全体で見ると海外製のシェアには劣るという。山本さんの次なる目標は国産〆縄の需要拡大だ。
「コロナ禍の影響もあり、国産〆縄の需要も高まりつつあります。」と言う山本さん。大量生産大量消費の現代に多くの手間をかけ、一本一本手作業で〆縄を作ることの意義を伺った。
「古くから日本では多くの人が農業を生業にして生活してきました。〆縄は穀物が実り、生活が豊かになることを願った人々が初日の出とともに現れる五穀豊穣をつかさどる歳神様という神様を家に迎え入れる目印として飾ったと今に伝わります。現在では海外製の〆縄を飾る家庭も多いと思いますが、〆縄を飾るという文化は日本の長い歴史の中で培ってきた日本ならではのものです。歳神様は日本の〆縄(藁)に宿ると伝えられています。なので、ぜひ日本のお正月には国産の〆縄、ひいては南魚沼で作られた〆縄を飾って欲しいという思いで日々製作に勤しんでいます。」と山本さんは語る。

海外へ【南魚沼ブランド】の発信

(株)竹治郎で作られている〆縄商品は南魚沼で栽培している稲藁はもちろん、装飾に使われる水引、友禅紙にいたるまで国産の物を使っている。〆縄を飾るという日本の伝統文化を守りたいという想い、南魚沼で作られた〆縄で新たな年の始まりを祝ってもらいたいという想いが伝わってくる。
そんな熱い想いを持つ山本さんはお正月に〆縄を飾るという日本の伝統文化と南魚沼産の〆縄を海外へ発信していきたいと考えている。
「以前取引先の企業様がフランスの高級ホテルに〆飾りを紹介した時は、大変好評で海外の方々も興味を示していたそうです。」
現在はコロナ禍で海外に向けた発信は難しい状況ではあるが、
「今後も日本の伝統文化の発信と南魚沼の自然と人の手が育んだ最高の〆縄を【南魚沼ブランド】として海外に発信していきたいです。」と山本さん。近い将来、(株)竹治郎が作る〆縄は南魚沼産コシヒカリ同様、南魚沼が日本、そして世界に誇るものとなっていきそうだ。

伝統文化を次の時代に

現在、(株)竹治郎の〆縄の購入者の多くは60代~70代の人が中心だという。また働く職人の高齢化も進んでいる。
「このままでは〆縄を飾るという文化自体が衰退してしまうのではないかと危惧しています。」と語る山本さん。そこで新たなチャレンジを考えているという。
「まず若者に〆縄を飾るという文化、職人が一本一本手作りで作っているということを知ってもらう必要があると考えています。そのために現在、工場のオープンファクトリー化を考えています。」
オープンファクトリーとは職人が商品を作りだしていく現場を公開し、来場者に体験してもらうという取り組みだ。普段見ることの出来ないものづくりの現場は魅力的でエンターテイメントの一つとなるため、近年取り組む企業も増えてきている。
「実際に〆縄を作る現場を見てもらい、ものづくりの現場を体験してもらうことで、(株)竹治郎が作る〆縄の魅力や〆縄を作る職人のかっこよさを多くの若者に知ってもらいたいです。ゆくゆくはそこで体験した若者が職人となって〆縄という日本の伝統文化の継承者になってもらえたらと思いますし、南魚沼に新たな雇用を生むことが出来ればと思っています。」

株式会社 竹治郎

●949-6682新潟県南魚沼市大月611-1
●TEL/025-772-7608
●HP/http://www.takejirou.jp/

家族と囲む憩いの時間

会社の向かいにある自宅で、毎日昼食をとる山本さん。一緒に働く家族と食卓を囲みながらリラックスした表情を浮かべ午後への英気を養う。自家栽培のコシヒカリと野菜を使った料理の数々が食卓を彩り、調理師免許を持つ奥様の愛情が家族を支える。